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ワワワワワワワンと
diary photo 朝がたヒバの垣根伝いに坂道を郵便局へ歩いて行った。小さな通り沿いは、昔の姿の菜園のある農家、新しくできた集合住宅、震災後に新築した家々の並びやただいま改築中と、時のに流れに沿ってさまざまにその外観も移り変わる。
 2016年の春、夏、秋と、冬を迎えても、夕暮れどきの静まった風景をウォーキング、時々ランニングを交えて神社まで往復していた。ヒバの坂を登る途中の家に小さな留守番犬がいて、庭先の犬小屋から生垣めがけて暴走し、ワワワワワワワンと吠えかかる。いつも一本調子、ありったけの力を振り絞って全開で。
 やがて、遠くからも気配を嗅ぎ分けるようになり、義理堅く繰り返すので「こんばんわ」と挨拶までするようになった。a dog disappeared one morning あれから5年、さざ波立つように、ヒバの葉がまんべんなく陽光を扇いで萌え輝いてる。

4月10日
diary photo 明るい黄緑色の蕾がみるみる膨らんで、植木鉢からテニスボールが弾み出る如く咲き誇り、朝に夕に太ってゆく。スノーボール(オオデマリ・ビバーナム)という名の小ぶりの花は成長に伴って、蕾に宿していた色素が水に薄まるような比率で、だんだんと白んで消える。その姿はさながら雪の玉。
 紫陽花はアジサイ科でこちらのスノーボールはスイカズラ科という情報だった。日本原種のヤブデマリの園芸品種といわれるが、学名上はこちらが基本品種として記載されてしまったので、原種のヤブデマリは変種扱いにされているという理不尽さ。
 花の図鑑を見はじめると、界門綱亜綱目科属種と次から次へとリンクを辿ってしまう。それぞれの経歴は、複雑な事情を持っている。いやあ、きみ、ここに至るまでには大変な苦労があったんだねと慰めれば、風に揺れてふわりと踊りだす。

4月20日
diary photo 朝夕はキュンと肌寒く昼間は日差しが強くなるこの季節、花冷えで風邪などひかぬよう気をつけましょう。コットンではうすら寒いし、ウールはもたつくし、このような気候に薄手のカーディガンというものはふさわしいんだな、とこまめにボタンを留め外しして調節する。植物にとっては大忙し、次々にラッシュのように花咲きと新芽と草木の勢いづくさまにつられてそわそわと、心も浮き立つ。
 牡丹の蕾が膨らんだと気にかけていたつもりでも、うっかりすると次の朝方には大きく開いている。オペラ、モーヴ、コーラルと、咲いたそばから花首を1輪ずつ切ってグラスにさす。キッチンの窓辺に、洗面所の片隅に、そこかしこが華やぐ。天気が良ければ週も待たずに花びらが崩れ落ちるさまは潔いというよりあっけない。
 そうして今年の牡丹は終わる。じきに芍薬が咲く。芍薬は牡丹の台木ですって。