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目尻がとろけるように下がる
diary photo
 正月はゆったりとおせちの準備にとりかかる。夫はマグロの刺身を造り、私は蕪と蛸の酢のもの、向かい合った真ん中に黒豆、ごぼう、田作りを一口づつ盛る。
 お酒で乾杯してゆっくり一巡したら皿を下げて、辛子を溶いたら家伝の豚の角煮を味わって、年が明けたんだなあと、目尻がとろけるように下がる。
 締めはお雑煮、この出汁をひくたびに思い出す。いつか実家で出汁をひいてあげようと、鍋に花鰹の大袋からばさっと全部投入したら、母がめまいがしそうだと驚いた。ふだんは軽くひとつかみいれるものだと。小言を余所にひとくち飲ませてみたら、父は病床から飛び起きそうなくらい元気が出るよと驚いた。
 鰹の出汁はそういうものだと話したリモートセミナーに参加されていた川崎にお住まいののりこさんが、以来暮れにわざわざ日本橋の「にんべん」へ走って送ってくださる。wherever you're, I'll come runnin'...なんとめでたい鰹節だこと。

1月10日
diary photo  クインテッセンスの東京時代の懐かしいお客様から年賀状が届いた。「ようやく日常が戻ってきて心の余裕も増えました。大切なピアスをつける機会も増えそうです」ほんの数行のメッセージ、そうなんだ。彼女のことも耳元できらめくラズベリーのようなルビーのピアスも覚えている。
 コロナ禍以降は、今年の暮れには、来年こそは収束して欲しいと願えども、がっかりする感染の周波を幾度もくぐってきた。それが、なんとなくこの春のに、むかし通りとはいかなくとも日常に近づくような気がしている。
 しかも、こんな機会にルビーのピアスをつける日を待ってくださる人がいたのだと思うと勇気がわいてくる。クインテッセンスのデッキの紗のスクリーンもリフレッシュしなくちゃと、朝から縫い始めた。そう、なんでも手で作る。白い紗が帆のように風をはらむので裾に麻ロープを通して両側を垂らして錘のように結ぶ。

1月20日
diary photo  少し甘くホロホロした優しい食感のコーンブレッドが食べたいなぁ。レシピを探したらいくつかのタイプがあるので、材料や分量を見ながら、昔食べた記憶をたどりつつバランスを変えてみた。
 ところで主役のトウモロコシの粉には、粒の粗いほうから細かい順にコーングリッツとコーンミールとコーンフラワーがあって、ミルで挽いたグリッツにしてみた。
 バターと卵とブラウンシュガーを混ぜて、アーモンド粉と薄力粉とベーキングパウダーをふるい入れ、グリッツを加えてツヤがでるまで混ぜて型に入れ、190℃で焼いていたら、中央が盛り上がってアメリカンカントリーの納屋のよう。
 焼きたてを切って食べてみた。口のなかでほどける香りも甘さもいい感じなんだけど、難は最後にやってくる。歯ざわりまさにグリッツ! ワイルド過ぎる選択だったかな。初心者にはコーンミールあたりが順当ではなかっただろうか。