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パリの帆船模型の専門店で設計図を
diary photo ものごとをひとつ前へ進めるときの気分は、どこか船の旅に似ている。それは今朝のように新しい年がくるたびに、新しい計画をスタートさせるときも、さあ、船が出るぞ〜って心の中で汽笛を鳴らすのだ。
 振り返れば去年は一気に10年分くらいの出来ごとがあり、そろそろ新しい航路に舵を切るのにいいタイミングだなと強く感じてきて、もしかしたら初夢も船の旅かもしれない。ヨーソローっといきたいものだね。
 クインテッセンスをスタートさせたときに、ショーウインドウを飾ったのがこの帆船…Marie-Jeanneという名のフランスのマグロ船だった。
 夫がパリの帆船模型の専門店で設計図を手に入れた日から完成に向かう滔々たる時の流れを身近に感じつつ。板を削りだしてキールを組んでデッキを張り、糸を撚ってロープを綯い、布を染めて帆を縫い、古びた感じを出すために凝ったディテールや塗装を仕上げた。実際、ほんものの船が造れそうな気さえしてくる。
 こういった帆船の模型を集めた博物館がパリにはあった。ノルマンディーやサントロペあたりではアーティストたちが手作りの船の模型を売っている。ブリキで作った色とりどりの、目を疑うほどに愛らしく、実在する灯台の模型だ。どうしてこうも海モノが好きなのであろうか…be wise enough to know when to move on.
 人生という航海もまた冒険に満ちあふれている。

1月10日
 10年以上も前のことになるが、ひょんなことからインドの宝石を鏤めたちいさなボタンにめぐりあった。思わず「まあすてき」と目を丸くしたが、ふと「洗濯をするときはどうするの?」と現実みを帯びたことを口走った。「洗う前に外して、洗濯が終わってたたむときにまた付けるの」と宝石商は教えてくれた。「だれが」と呆れる顔に「召使いたちが」と、にっこり笑いながら答えが返ってきた。
diary photo  今の時代には想像もできないような生活の様式を教えてもらって、金輪際、博物館でも滅多に聞けないような話に興奮した。その折、燃えるようなルビーのボタンとダイヤモンドのような話とまぶしい出会いを胸にそっと抱いて持ち帰った。
 インドの宝石には独特の文化的な背景があって、西洋の宝飾とは少し異なる。古来、最高品質の石と最も純粋な金のみがエネルギーとパワーをもたらし、魔除けとして最大の力を引き起こすという。加工された石やファセットの技術はヨーロッパから来たもので、ダイヤモンドでさえ砕いた石のかけらのように扱う。
 赤い血のようなルビーは動物の生命力を、青い空と黄色い太陽によって作られた緑のエメラルドは植物の生命力を、まるで秘薬のように扱うセンスは、その昔、これらの源泉や富を求めて、勝ったり負けたりの戦争をくり広げた時代を思わせる。
 インドの宝石の不思議に触れて、体の内側から力がわいてくるようだ。

1月20日
 昨日まで3ヶ月近くかかって倉庫を改装した空間のインテリアデザインを終えた。オーナーのけんたろうさんと一緒に、プランを仕上げた日から、調度品や設備をはじめ、どんなに細かい部品もリストアップして選んでいった。
 「よくそんなに次から次へといろんなところから見つけ出しますね」と半ば呆れられた。あるときはネットショップで取り寄せ、あるときはホームセンターへ一緒に出かけて、せっせせっせと車に積んで運んで帰る。「だって、スタイリストなんですもの」が口癖だ。いわれてみれば、尽きる事のないちいさなアイデアの源泉は旅の記憶の集積ではないかと思い至る。
diary photo  たとえばカーテンのエンド、あるいはフィニアルとも呼ばれるこんなものはどうだろう。旅先のホテルの窓に、鳥が先端で反対側を向きながら、カーテンを吊るした棒の両端で、なんとも心地良さそうに納まっているではないか。ここに一対のスワンをこんなふうに、なんて考えた人の気持ちがすてき。いったいどういうところで、だれが作っているんだろうか? 街の鍛冶屋で誂えたのかしら? それとも専門のカタログで調達したのかしら? う〜ん、手に入れたい。
 まずはホテルに尋ねてみて、わからないときは町へ出る。道すがらそれらしきところで探したり聞いたりして、次から次へと訪ね歩く。ズバリもあればハズレもある。ものとのめぐりあいは時の運だけれど、そのたたずまいはけして忘れない。
 そしてそういったものたちが、いっぱいたまって次々にあふれ出てくるのだ。