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こちらはフランス産、雰囲気が少し違う
 熊本へ来てすぐに、それまでの食生活を維持するための、ちょっとしたものが市場で手に入らなくなったので、軒下でハーブを育てて、必要なときに摘んできて使うという夢を叶えるべく、植木鉢で増やすことにした。
 パセリ、セージ、ローズマリー、タイム、ローリエ、バジル、オレガノ、コリアンダー、ペパーミント、スペアミント、アップルミント、カレーリーフ、カスメリティ、年月を経るごとに作る料理も国境を越えて広がり続ける。
diary photo  この辺りではもうじきアゲハチョウが山椒の葉に卵を産み付けてかえったモスラが葉を食い荒らす。夏が過ぎると次はコガネムシ、カミキリが植木鉢の土に卵を産み付けて、幼虫が根を食べ尽くす。殺虫剤を使わない園芸家は片時も気を抜けない。
 去年まで育ってきたセージの葉の勢いが悪くなった。掘り出してみたら案の定、幼虫。それでも気を取り直して、種から育てた今年のコモンセージ。一つはモルドバ産と、こちらはフランス産、雰囲気が少し違う。パステル画のような銀の綿毛を纏った深緑の葉を …are you going to Scarborough fair ? 私たちはフリットにして食べる。

5月10日
 コロナふたたび、全国的に感染拡大している。外出時のマスクも長くなると呼吸困難で頭痛がしてきて辛いけれど、それに加えてこの数日は黄砂が舞って呼吸がいっそう苦しくて、室内でもマスクをした。PM2.5 そして花粉、空気が汚いってことほど陸の生物にとってダメージの大きいことはないだろう。見えない相手だし。 diary photo
 買い物へ出た帰りにパイナップルを買ってきた。キッチンの棚の上の籠に入れた。しばらくすると甘い香りがそこらじゅうに漂って、少し呼吸が楽になった気がする。果物ってこういった作用があるのかしら。
 そしてこういった感覚は過去にも幾度となく味わったことがある。はるか遠い旅先のそこかしこで。なんということはない日々のとある一瞬に甘やかな気配。たとえば砂漠の街で。外の日照りの渇きとは対照的に、薄暗がりの水盆に清らかさを湛えて浮かべた花びらに心が吸い取られる。
 一幅の絵のような風景でもてなす心の尽し、それを潤いというのだろうか。

5月20日
 ずっと前に何かの拍子で見た自著「インテリアレッスン」の批評に、インテリアのハウツー本を期待してたのに、なにせ花の写真ばっかで、と怒ってた人がいた。読みながら思わず手を口に当てて、そうか、タイトルでジャケ買いしたのだったら怒るのも無理はないかも、と苦笑した。インテリアがらみの四季折々に花ばっか。 diary photo
 たしかにそう受け取れるかもしれないけれど、少しだけものの見方を広げてみて柔軟に考えて欲しいな。
 古今東西のスタイルや空間の広さを超えて、自分の庭に咲いた花一輪摘んで飾る気心が、インテリアの真骨頂だということを。
 光の様子や壁や設備との調和と色合い、花と器のバランスを自問自答しながら迷うひととき、あるいは家人の差した摘み花の漂う香りに心動かされる瞬間を。
 洗面所の扉を開けるなり、我が目を疑う感動の朝を。クレーム・オ・ショコラと見紛うは先週から咲き続けて枯れる寸前の白い芍薬だった...インテリアは生きもの。