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摘んでも摘んでもぐんぐんと繁茂
 ディルの生葉はスモークサーモンやマリネにちょっとひと枝散らすと見た目も香りもよく、そして口に運ぶ時のさわやかなイメージが忘れがたく、我が家の箱庭でも植えてみましょうとタネを蒔いたら、すくすくと色鮮やかに冬を越して育った。
diary photo  とりわけサーモンとは切っても切り離せない。黒いパンにクリームチーズを塗って載せて、玉ねぎ薄切りの上にディル、ケイパーの組み合わせは絶妙。何度かイカやイワシのマリネに添えてみたけれど、やっぱりサーモンだよねと。
 それからコリアンダーも秋に種を撒いた。春撒きは葉に虫がつきやすいから。好んで作るメキシコ料理のなかでも、にんにくとアヴォカドをすり鉢で擦ってレモンを絞ったグァカモレ、そしてトマトと玉ねぎを刻んだサルサメヒカーナにコリアンダーとハラペニョは欠かせない。...とはいえど。
 摘んでも摘んでもぐんぐんと繁茂、これはドライハーブにするしかないか。すべて枝を刈り取って乾燥させたら枝葉末節きわだって、リンネの植物図みたいに表情を変えて、 remember me to one who lives there... 部屋中を香りで包む。

5月10日
 雨降る前にローリエの葉を収穫した。熊本へ引っ越してすぐに買った鉢植えの小さなひと株。そろそろきゅうくつかな?と、夫はひと回り大きな鉢へと植替えを繰り返した。おかげでぐんぐん大きく育ち、私たちの背丈よりも高く伸びそうで、収穫するのに手の届く枝ぶりに収まるよう、毎年樹形を卵のように剪定をして。
diary photo  今年の葉は一層つやつやと深い緑を湛えて、いつもより濃いよねぇとよろこび勇んで、なめらかな流水で洗って、竹笊に広げて、あと2週間ほど室内で乾燥する。
 その準備を追えた日の夕刻に、遠くに蒼く朧げなシルエットを臨む高山より新茶の便りが届いた。しかしながら、私の分は老木で収穫が遅れるので、それから釜炒りを終えて、今月の末ごろになるのかしら?と、そわそわしながら待ちわびる。
 このふたつの緑の精を同じように毎年楽しみにしている人たちにも送って、味わいは、香りはどうこうと感想を交わしながら、その年の出来栄えを祝う。
 自然界は刻々と変化して、まさに同じものには二度と会えない天の恵みを、季節が巡るごとに堪能できるのは、今となっては貴重なできごとのひとつになった。

5月20日
diary photo  我が家の朝倉山椒は、震災のすぐ後に4年木を買った。日向と影りのぐあいよく、風の通る階段の踊り場に鉢植えで育てて、そろそろ7年目。一昨年の夏に根っこをコガネムシの幼虫にやられそうになったが、去年の始めに植え替えがうまくいったので感慨深い。
 去年は少しだけ実をつけた。今年はその倍、粒も大きく育った。実のなかで種ができる前の柔らかいうちに摘み取って、アク抜きのために2、3ヶ月ほど塩漬けにする。実から軸を外すのにいちばん手間がかかるけど、じゃこ山椒の佃煮にしたときなど、ぴりりと柑橘系の香りがたつと、こうでなくっちゃと。
 夕食後、お茶を飲んだら、じんわりとした疲労と倦怠が混ざり合って心地よい。収穫の充実感っていうのかしら? 枝には実を少し残してある。種ができ、乾いて実が割れたら瓶に保存し、都度擦りつぶす粉山椒は、土用の楽しみのためにある。