- スパを予約してあるって?
- これは孔雀? 魚もいるよ、太ってるねえ。なにこれ? 陽が傾いてもまだずっとカンタを見ていたかったけれど本日はここまで。見終わったのと見ていないのに分けて、隅に寄せておいて、また明日見るからとお世話係に伝えました。風さんにおいとまを乞うと、今朝ほどのドライバーを呼んで、私たちをホテルまで送るよう命令して、そんなに興味があるのならあさってはカンタのミュジアムに案内しましようと誘ってくれました。
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- ホテルへ到着すると、我が家に戻ったような懐かしい気分になりました。おそらく150年も前の美しいもの、古いものを見てきたあとに、当時の面影を遺す建物のなかにいる、ふたつのときが同調して、いにしえの時代へタイムトラベルしたようで、世界がまったく違って見えます。こんな体験ははじめてです。旅先のヨーロッパでも東京でも、美術館帰りにこのような余韻は味わったことがありません。たぶん、こまやかな美しさなどといったものは都会の喧噪に、あっけなくかき消されてゆくのでしょう。
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- プールサイドでビールを飲みながら、風さんはたしか、6時にスパを予約してあると言ったことを思い出しました。そろそろ行ったほうがいいかしら。ロビーの脇を通って、スパの受付で名前を告げると、予約リストには名前がないと。私たちが顔を見合わせて首をかしげると案内嬢は「ちょっとお待ちを」と奥へ行き、すぐに戻って来て「どうぞ」と優雅な手のしぐさと微笑みで誘います。予約の不手際はさておき、せっかくだから入ってみましょうか。
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- 途中で伴侶と私は別々の通路に導かれました。カーテンの奥で服を脱いで、ローブに着替えると、ほの暗い部屋へ通されました。巨大なテーブルがあります。そこへうつ伏せになるように促されました。けっこう高い位置までよじ上って、さながら、まな板の鯉ですね。やがてゴマのような匂いのする温いオイルを塗られて、全身のマッサージです。だるくなって、気持ちよくなって、いい香りで、どうしよう。どのくらい経ったかしら。今度は仰向けにひっくりかえされて、タオルをかけられて、そのあとは……。