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スパはどこ?
目が覚めると、「ゆっくりと身体を起こしてください」とささやかれました。全身のオイルを拭き取ってくれたあとに、案内係に導かれた先は、どうやらシャワー室のようです。え、シャワーなの? 私はすっかり温泉があるとばかり想像していたので「スパはどこ?」っていってしまいました。「ここがスパですよ」とにっこり笑って答えるので、「スパってなに?」って、今さらながら聞いてみますと、「ここではアーユルヴェディックなマッサージをしたりトリートメントしたりするのです」と説明してくれました。
 
「そうなの。私はすっかり療養の温泉だと思っていたわ」というと、「はい、そういったリゾートもありますよ」と笑いながらバスタオルを渡してくれました。シャワーを浴びたらローブに着替えて、柔らかな光のサロンに通されました。そこにすっかりふやけた伴侶が現れて、スパの意味についてのやりとりを話したりして笑っていると、ハーブティーが運ばれてきました。しんとして、久しぶりにゆっくりとくつろぎました。
 
出るときに部屋の番号を告げてサインをしました。風さんはスパを予約してくれたといったけれど、そんな様子でもないようです。「忘れたんじゃない?」と歩きながら話しかけると「そうかな……ま、いいけどね」と伴侶。こんなことでもなければ、おそらくアーユルヴェーダともマッサージとも無縁だったかもしれません。「どうだった?」と聞けば、「まあ、1回は経験してもいいけど」と。今まではマッサージをそんなに好きではなかったけれど、スパは気持ちよかった。「私はあと2、3回は経験してみたいな」と。
 
またプールサイドへ戻って、ビールを頼んで。「ねえ、ところで、スパを予約することって天竺流のもてなしなの?」「相手の好みも聞かずに?」「取りにくいオペラのチケットを頼まれて予約するとかいったことならわかるけど、ちょっと理解に苦しむわぁ」「スパは空いてたしね」とつぶやく私たち……。とっぷり日が暮れると一日の疲れがひたと押し寄せてだるくなり、そのまま坐って星空のもと、今宵もマルゲリータで夕食を。