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マンゴーの夢
「食事の用意ができましたよ。飲み物は持って降りてくださいな」と風さんがダイニングルームへ誘います。薄明かりのペンダントのもとでキャンドルが揺らめくダイニングは、心地よい雰囲気とスパイスの高貴な香りに包まれていました。卓の向こうの窓辺でなにか動いたような気がして目をこらせば、星空をバックに白いハトが二羽、こちら側の様子に目を醒まし、またうつむいて仲むつまじく、寄り添って眠ってしまいました。
 
「飼っているの?」ってたずねると、「いつの間にか棲みついたのよ」と見守る風さんはうれしそうに、外壁から持ち送りのある窓台に巣をこしらえていると話す。概してお年寄りのいる家などは、静かでいたずらもされないから、小鳥や小動物がバルコニーや庭先を訪れるという話は耳にするけれど、このような近距離では珍しく、インテリアとしての眺めはまるでトロンプルイユのように、幻想的な窓辺をかたちづくっていました。
 
ハトの様子に見とれているうちにテーブルには、オクラとカリフラワーと茄子のサブジ、チーズとほうれん草の緑のカレー、黄色のダール、プラオとベジタリアンの皿が並べられて宴もたけなわ。やがてお母さまも同席され、あいさつを交わし、ひと口ふた口食べると満足して奥へ退かれたので「ご病気なの?」と心配すると、先週マンゴー売りがきたので、あわてて買いにいこうとしたら、途中で転んで骨折したということでした。
 
食事を終えて、デザートは当のマンゴーのプディングでした。白い磁器の丸いプディング型に入ったまま冷やしてあって、これまた小さな銀のスプーンで掬って食べました。完熟の鮮やかな黄金色をしています。口に運ぶとかぐわしいマンゴーの香りがふんわりと立ち、滑らかに舌をすべるように溶けて、リッチでスムーズ、あと味が残りません。「新鮮ね! いっつもこれだけを食べていたい」と私がいうと「マンゴーをたくさん詰めてあげますから持って帰りなさい」と風さんとお父さまは大喜び。ですが、果物は持ち帰れない?
 
その夜、さざ波立つマンゴープディングのプールに溺れてしまう夢を見ました。