logo

日の名残り
そうやって、天竺を去る前半日を、心ゆくまで骨董街で遊びました。重たい鋳物のおもちゃの入った袋をぶら下げて……「お昼は風さんがゴルフクラブで待ってるって約束したわね」と私が思い出したようにいうと「じゃ、車に戻りますか」と軽い返事。すぐに会話を合点したかのようにドライバーは「come!」とうれしそうに小走りで進みます。「どうして悟られちゃったんだろう?」と私。「なんか雰囲気なんだよね」と伴侶は愉快そうに。
 
ゴルフクラブのゲートをくぐり、アプローチをしばらく走ると、なかにちょっとした広場があって、風さんはそこで携帯片手にだれかと話しています。私たちを見つけると、手を振って近づいてきました。「あの建物のなかに食堂があるから、そこでランチを」と指差した先には、こんもりと深い木々の緑を背景に、コロニアルふうの建物が見えます。そこへ続く小径は歩いてもほんの少しの距離なのに車で移動です。先ほどまでの猥雑さが嘘のよう。
 
建物のなかはひんやりとして、両開きの窓からは明るい光が差し込んで、高い天井から吊られた巨大なファンがゆったりと室内の空気をかき混ぜています。大きな長方形のテーブルがいくつか整列して、テラスに面したところでは丸テーブルを囲んで、10人くらいの紳士グループが会食しています。私は飛行機のなかで観た映画「日の名残り」の、アンソニー・ホプキンス演じる執事が、今にも奥の扉から出てくるのではとどきどきしました。
 
私たちを案内した給仕も初老のハンサム爺でした。糊の効いたスタンドカラーの短い白ジャケットにコットンのゆったりしたパンツが、厚くニスを塗ったテーブルに映り込んで、ふわりと眠気も襲ってきて、なんだか船旅をしているような気分にさせられます。長テーブルの席に着くと、冷たい水とメニューが渡されました。風さんは「なんにしますか?」と聞くので「私はベジ」と。「今日はノンベジにしとこうか」伴侶の答えに大笑いしながら「OK!まかせて」と注文をしてくれました。「あ、ウケてるよ」と伴侶。
レンズ豆、オクラ、チキンと、なす。どの味付けもやさしくておいしかったあ。