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植民地時代の名残り
ロンドンの骨董街をめぐるとき、そういえば年代物の家具を買いたいと思ったことはなかった……あの空の色、重厚な家屋敷、歴史の色濃く遺る街並のなかで馴染む家具も、日本の気候風土のなかでは、どこかよそよそしげな居心地の悪さが先立つようで。ところが、いつか見たウィリアム・モリスのプライベートコレクションには、東方の雰囲気を持ったテキスタイルや装飾がミックスされていて、不思議な親しみを感じたものです。
 
今にして思えば、それは東インド会社時代のインドの更紗やペルシャ絨毯の紋様から影響を受けたものでした。天竺の骨董街で見るイギリス植民地時代の家具のなかには、天竺で誂えたものも多く、見よう見まねで作られた亜流ヴィクトリアンには、東方の装飾がところどころに施されて、見方によってはそれがちょっと皮肉っぽいユーモアを湛えていて、「なんだかいい風情をしているね」と不思議な親しみを覚えてしまうのです。
 
それにもまして、ちいさな生活雑貨や玩具などは無邪気で、どこへいっても気持ちがそそられます。伴侶が見つけたものは、鋳物の貯金箱でした。なにかしかけがしてあって、コインをいれると動くものがいくつかありましたが、これもそうでしょうか? 台座には、フロックコートを着たポマード髪の白人が、椅子に腰掛けた黄色ジャケットに赤ベスト、白ズボンの黒人にナイフを突きつけて襲いかからんと……コインを入れてみよう。
 
……変化なし。そこで、椅子の足もとにあった赤いレバーを倒してみたら、椅子はリクライニング式になっていました。ガチャンと音をたてて、黒人の男が椅子からのけぞって、その拍子に両手も両脚も上げ、椅子ごと後方へでんぐり返ってしまいました。ひえ~っと私たちも声を出して驚いて、そのカリカチュアならぬ風刺玩具を買ってしまいました。でもこういうものは天竺の人が楽しむわけはありません。遺物です。鋳物なので重いです。