- カンタを抱きしめて
- ゴルフクラブでランチを楽しんだあと、この数日で選んだカンタを譲ってもらうために、風さんと交渉をしなければならないときがやってきました。オフィスへ到着すると見知らぬ女の人が2人、私たちを待っていました。大きな荷物を担いで山岳地方から電車できたそうです。彼女たちに荷をほどくように風さんが言っているようです。言葉はよくわかりません。広げられたのは、今まで見たことのない鮮やかな花いちめんのカンタです。
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- 「わあ、これもかわいい。すごい色彩感覚ね……この世には咲いていない花」原色の赤と緑に黒、かたやボルドーとラピスに金の糸、ピンクとターコイズに銀の糸、万華鏡のような模様です。「欲しいのがあったらこちらに選り分けておいて」と風さんにいわれてまたひとしきり、何度も見返しながら十数枚あるなかから5枚を厳選しました。そして伴侶は「あとでも一回見よう」と風さんのコレクションのカンタの方に向かいます。
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- お世話係の男女ふたりが、またいつぞやのように、取り置きのカンタを次々に広げてみせてくれました。「やっぱりいいね」大きいの小さいのとあわせて20枚くらいはあるでしょうか。日本へ持って帰って多くの人に見てほしいという思いは募ります。「これがあなた方のセレクション?」と風さんは私たちの選んだものをゆっくり見直してゆきます。「いいのばっかり選んでる」と少し惜しくなってきたのか、「これをどうするの? 売るの」と。どうするかなんて考えてもみなかったので、とりあえず「売るつもりはないの」と私。「じゃあ、プライベートコレクション?」というわけでも……
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- でも、どうしてそんなことを聞くのでしょう? 「売るのとコレクションでは値段が違うのかしらね?」と伴侶に尋ねると「さあね、気になるんだったら聞いてみれば?」とつれない。そうこうしているうちに、リストと勘定書が出来上がってきました。予想を覆す価格でした。「たっか~ぁ……」と思わず口に手をあてる私に伴侶は「そんなところでしょう」と。「出国時に必要な証明書を作成しますからしばらく待ってくださいね」と風さん。いよいよもって、貴重なものを譲り受けるんだなって実感がわいてきました。