- センシティブな16歳
- デザートのあとは風さん特製マサラチャイをいただきました。う~ん、これまたこっくりとして美味しい。伴侶は今夜はブラックティーです。ちょっと連日の疲れがでたらしく、天竺のミルクにあたってしまったのかもしれません。もともと小食ですが、旅先では食べるものを節制する主義で、おかげで病気にかかったことがありません。風さんは「鳥の食事のようだ」とからかいつつも、それを美点と感じているようなふうでした。
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- するとそこへ、女の子が奥の部屋からひょっこり現れて、よそよそしくキッチンのほうへ素通りしようとしました。風さんが「ほら、あなた、待って。お客様に挨拶なさい!」と叱ると、「ママはいつもそうなんだからぁ」と反抗的な態度で「いつでもママのお客様、ママのお客様にって……」と膨れっ面で、それでも「こんばんわ」って。イラスト爆発のアメリカンなTシャツにローライズの白いショーツ姿、もちろん裸足ですが、絹糸の束のようにしなやかで長い黒髪は肩先を優雅に流れて、とてつもない美人です。
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- 「こんばんは。おいくつ?」と尋ねると、ちょっとはにかんで「16歳」とうつむいたので、じつはとても素直な女子なんだと思いました。私はすぐに彼女の飾り気のないこころが気に入って「16歳かぁ。I am Sixteen going on Seventeen……」と、自分が16歳の頃に観た『サウンド・オブ・ミュージック』という有名な映画のなかのフレーズを小さく歌うと、「yeah…」と笑った顔はあどけなく、まっすぐな眼差しが印象的です。
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- 母親似のふっくらとした体躯から、まっすぐに伸びた手脚の手首や踝はみごとにすぼまって、さながら子鹿を思わせます。小さい頃からダンスをたしなんで姿勢よく、傾いて髪を直すしぐさ刻々、前衛のバレエを鑑賞するようです。風さんみたいな家の子どもには、高い国際教育を受けさせるのが常で、今は大学受験資格取得に向けて猛勉強中です。「大学はどちらへ?」と尋ねると「好きな祖父母と離れたくないから、私は国内の大学に行きたいけれど、母は英国の大学へ行ったほうがいいっていうから、迷ってる」と。