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ふと横を向けば
前方へ進行している状態の視界の両端を、ひとはどの程度認識しているのでしょうか。なにかに気を取られていると、視野は狭くなるといわれます。ふと、気配を感じて横を向く。立ち止まる。じっと見入る。そして発見し、驚く。予期せぬ領域に、美しい光景を見つけだしたとき、もしや幻ではないかと戸惑い、やがて独占的な悦びに包まれるのです。この行動科学を折り込んだ動線計画は、エンターテインメント性をもたらします。
アイランド : island
広いフロアを味気なく感じさせないために、いくつかの島に分割する。まさにそのためにあるのが美しい紋様のペルシャ絨毯でしょうか。色とりどりのパターンが大理石の上に繰り広げられ、それぞれに椅子やテーブルをこぢんまりと居心地よく。広い空間の開放感と、よりどころを求める気持ちと。ともに満たしつつ全体で調和させるセンスは、とても大人なもてなしです。広すぎるな空間って、こころもとないものですから。
中庭
敷地を囲むように建物があって、美しい庭をぐるりと回廊が巡る。その昔、中東によく見られたこのような建築様式は、寺院や城塞のほか、隊商の宿泊地にもなっていたキャラバンサライなどに見うけられます。砂漠の厳しい気候から内側を快適に保つためのくふうがこらされています。天高くそびえる椰子とオアシスのような中庭。朝夕に冷えた空気の心地よさ。ときどき小さな鳥もやってきます。そして庭はあるじを物語る。庭の手入れや植栽のセンスを見れば、もてなしの良し悪しまでも推し量ることができます。
昔日の面影
スマートデザインが主流の現代では、昔日の面影に心ひかれることなど、ますます機会が少なくなってゆきそうです。けれど、だれしも心の深いところでは幼いころのように、「むかし、むかし、あるところに……」とはじまる話にじっと聞き入る。懐かしさや思い出とはちょっと違いますね。むしろ憧憬に似た感じかもしれません。時を超えて今に存在するものの不思議さは、変わりゆく世界と変わらぬ心を折り合わせてくれるようで。