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大きな袋なんだけど、5日しか持たない
 朝食にグラノーラを食べるようになったのはいつの頃からかしら? おそらく日本に輸入されるようになって間もない頃ではなかったかしら。東京時代に麻布のインターナショナルマーケットの朝食の催しで見つけた。
 我が家はそれまで、トーストにゆで卵と野菜を添えて毎朝食べていたので、同じものばかりはよくないと反省して、オーツ麦にナッツや乾燥リンゴの入ったグラノーラという聞き慣れない食物を買ってみた。ちょっと小鳥の餌みたいだが、食べてみればしみじみと味わい深い。それからは週末ごとに必ず買ってきた。 diary photo
 350グラムの大きな袋なんだけど、5日しか持たない。残りの2日が待ちきれないほどだ。じきにグラノーラはブームになって、いろんな国からブランドが入ってくるようになった。英国やフランス、スイスやドイツの製品を好み、色や成分、配合のバランスを念入りに調べてゆくうちに、袋の透明の窓から見ただけで味がわかるようになってきた。
 あれから年月が過ぎて、昨今またグラノーラを食べたくなって、自分で作れないかなと外国のサイトを検索したら、オーブントースターでも作れることがわかった。さっそく生のオーツ麦とナッツやシードを数種、スパイス、干した果実をインターネットで注文した。その都度調合を変えながら、砕いたり混ぜたりしたものを、じわりと焼いてみた。
 我が家のオーブントースターのトレイで一度に作れる分量も350グラム…5日しか持たない。 it’s a taste of home as once it was. だから5日に1度作る。

9月10日
 今年植木鉢から地面に植え替えて初めての秋を迎える2株のぶどうは、やや戸惑い気味に小さな実を合計10房付けたけれど、半分剪定して5房残して袋をかけた。そのうち1房は台風とともに実が枯れて落ちたので、収穫はご覧に入れるには恥ずかしく貧弱で、完全に失敗した。diary photo
 今年は実よりも日差しを遮ってくれる役割が大事だからと、葉や蔓の勢いばかりを気にして。
 二兎を追うもの一兎も獲ずとはこのことだ。さてさてもう一兎の方だが、どこまで根を伸ばしたのやら、土を掘り起こすわけにもいかないので、枝振りから推して知るべし。
 オリエンタル•スターの株は蔓の行方をたどるように麻ひもで結わえたら、なんとデッキの半分まで庇の軒を伝ってのびてしまった。9月の終わりでもまだまだ夏日が続くので、この分だとデッキを横断してしまうかもしれない。それはいいけれど反対側には格子を組んでいないから、さてどうしたものかな。思わぬ展開に、期待と少しの不安がないまぜになったまま、秋を過ごしてしまいそうな気がする。
 ともあれ、この様子だと新しい土地を気に入ってくれたようだ。冬まではのびるに任せてよいらしい、とはいえ、ちょっと気がかり、カベルネ•ソーヴィニョンの株の勢いがない。

9月20日
のどかな片田舎の映像とボビー•ヴィントンの歌うテーマ曲が忘れがたい映画『ブルーベルベット』の始まりのシーンを観て以来、白い垣根に赤いバラは私の庭への憧憬だった。クインテッセンスの垣根を塗り終えてすぐに園芸店でバラの苗木を買ってきた。買ってきてすぐの年は背丈が30センチほどだったけれど、造化のように見事な深紅の大輪が風に揺れて、ひっきりなしにいくつもいくつも花をつけた。
 ちょっと出来過ぎじゃないかと思うくらい華やかだった。diary photo
 園芸店の植木鉢でかわいがられた苗木も、一年を超したあたりから、新しい土地の風説にさらされて、花はひと回り小さく、雨が降れば葉もすぐに黒星病にかかり、新芽やつぼみを付ければアブラムシがよってたかって食い尽くすようになった。肥料をあげてもハーブの虫除けを撒いても何のこうかもなかった。
 去年の夏にカリフォルニアから来たsayoさんが『カリフォルニアって雨がほとんど降らないし土地はやせているのにバラだけはよく育つんです』って話したときに、ハッとして、フランスのブドウ畑のバラを思い出した。そこで次の日にさっそくスコップでバラの樹の根をうずたかく盛って、周りを深く掘り下げて、水はけをよくした。
 以来、虫除けはもちろん肥料も水も何もあげないけれど、その立ち姿は凛と野生の風情あり、虫も病気も知らず、来客のある日には必ず赤い花を咲かせている。