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たちまちフレッシュな緑風が
 朝夕は冷え込むので、蘭の鉢、ニーム、レモンツリー、そして不思議なカレーリーフ、と穏やかな気候を好む植物たちは室内の窓辺にお引っ越し。
 カレーリーフってあのインドのカレーに入れるんですか?ってみんなは驚くけれど、ほんとうにそういう名の木があるなんて、私も最初はびっくりした。けれど、デリーを歩いていた時、アパートのバルコニーにこの植木鉢があって、どの家でも育てているみたいだった。
うちでも育てたいね、と石垣島で育ったと思しきカレーリーフの種子を注文した。 diary photo
 青々として光沢のある葉、それ数枚ちぎって、クミン、カルダモン、クローブ、桂皮、マスタードシード、コリアンダーなどのスパイスとともにゆっくり油に香りを移す。スパイスの香しさに加えて、カレーリーフを入れるとたちまちフレッシュな緑風が薫る。これこれ、驚くのはその絶妙なチューニングだ。その油でタマネギの薄切りをじっくりいためる。
 じつにインドの料理は香りのごちそうなのだね。
 それほど料理に愛されているカレーリーフを秋の日差しのもと窓辺において愛でれば… is finely tuned to different cultures. その枝振りはミニチュアの椰子みたいだ。あのえも言われぬ異国の情緒を含んだ香りが風に立つ。

11月10日
 ちょうどひと月前に、四国は愛媛県の、タオルでがんばっている今治の織元へ行ってきた。友人の京子さんと落ち合って、一緒に熊本へ連れ帰った。熊本からは仕事仲間のけんたろうさんが運転してくださり、関サバで有名な佐賀関からフェリーで佐多岬へ渡って四国へ入った。初めての愛媛は、そこで出会った人たちの心意気にも動かされ、ものを作る現場の情熱に触発される旅だった。
 綿を栽培しているところへ綿の花を見に行った帰りの駐車場で、あ、これ、ミントだ、アップルミントだよと摘んで差し出す京子さんの手のひらはリンゴのような甘い香り。あ、本当だ、と感心すれば、私は見つけるの上手なの、どこへ行ってもハーブや食べられる実とかね。これ持って帰って。育つからと2、3本くださった。 diary photo
 なのに私ときたら、帰りの車中に置き忘れた。けんたろうさんがその夜からコップ水にさしておいてくれたけれど、葉は元気なのに芽も根も出る様子がありませんというのを私が受け取って、夫が枝を剪定し直した。
 あれから、窓辺で日の光をたっぷり浴びて白い根がのび、今や能面翁の白ひげのごとし。鉢植えにしてひとつあげると約束した。
  絶対に土に直植えしちゃだめだよ、そこらじゅうにはびこるから。という夫からの伝言とともに。

11月20日
 熊本へ来て最初に仲良くなったいとうさんは、若い頃には日本全国をおしごとで巡られたそうだ。リタイアして熊本に住もうと決めて、東北から引っ越していらした。山里の休耕田をひとりで開墾されて、古代蓮の華を咲かせておられる。レンコンを栽培するとか、蓮の実を採取するといったことでなく、年に一度、見事な蓮の花を咲かせるために。…昔むかし、とあるところの話ではなく、目前の花咲か爺さんとお友だちでいるのが私たちには誇らしい。
 そのとき招待された早朝の蓮の水面は、薄暗い山間から日が射してくると、そこだけ光にあふれ、つぼみが開き始めるさまはまるでおとぎ話のような光景だった。内緒だよ、と悪戯っぽく笑ういとうさんは、日々蓮田の手入れに余念がない。 diary photo
 とある夕方の帰り道、蓮の実の枝をわざわざ持ってきてくださった。華がきれいなのに、なんでまたこんなのがいいのかい? とおもしろがられる。華もつぼみも実も葉も茎も、蓮に勝るものはないと思うくらいだけれど、こんなのがいいの。
 穴だらけの蓮根から伸びた茎の先の花芯も同じように穴だらけ。そして華の色素と同じ系統の色彩は時とともに紫から紫紺へと深まりゆく。
 さては火星からでも降ってきたかと思えるような、この摩訶不思議な造形はいったい、どうしたことだろう。