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人の働く姿など気になる
 若い頃からずっとフリーランスで仕事をしていたせいか、メーデーのお祭りに参加したことはないけれど、May Day =5月の日と書くので、その日になると夏の訪れとともに人の働く姿など気になる。旅先のカフェに座って、道行く人や働く人の姿をずーっと見ているのがなにより楽しい。
 日本では祭りでしか見かけなくなったスナック屋台、レンガ積み、パン売り、靴磨きなどは、道というものがインフラだけでなく、街が目覚めて眠りにつくまでの変わりゆく景色は、まるで呼吸をしているかのように、活動のリズムを感じる。
 いっぽう、働く姿はときとして、美しい景色のなかで絵画のように感動させられることもある。
diary photo ホテルの庭でブレクファストを楽しんでいると、植え込みの向こうに鮮やかな色がちらちらと光って見えた。クジャクかな? と思い注目していると、それまでかがんで仕事していた女の人が立ち上がって、おやまあ、庭掃除係だったのね。まるで歌いだすかのように鮮やかな色のサリーは、極楽鳥を思わせる。
 そういえば、南の島の海浜にニワシドリという鮮やかな青い色の鳥がいる。海辺から拾ってきた青い色のかけら which colors combine to make a song …を集めて巣と前の庭を飾る。色相の選り好みはとても厳しくて見習うべし。
 さても庭師鳥とはなんとすてきな命名でしょうか。

5月10日
 インドのラジャスタン州ジャイプールに有名なアーメルフォートがある。日本語のガイドブックにはアンベール城と記されて、琥珀の Amber に由来しており、アーメルは現地の発音に近い。夕暮れ時になると城郭は本当に琥珀色に輝く。
 この城には草花のモチーフで描かれた壁画やレリーフや象眼で細工されたいくつもの部屋があって、夢の国へ迷い込んだ気分ってこんなかしらと思わせる。
diary photo 豪華絢爛漂うなかで、色ガラスあるいは貴石を白い石灰の壁に埋め込んだ部屋がある。いわば近代的な、南仏趣味みたいな、軽快な色の調律をしてある。
 ガラスや石英は外の光を透過して、ステンドグラス効果を醸しているが、モチーフはいろんな形の花瓶をグラフィカルに配置して、なんというセンスだろうと、言葉にならず、ただ目を見開いて、ぽかんと開けた口を指で覆って圧倒されていた。
 フランスや英国のインテリアやテキスタイルの雑誌には美しい空間や光景が見開きページで掲載されて、私の目は釘付けになるのだが、どれも忘れがたい。おそらくここもそのうちの一つなのか、どことなく見覚えがあった。たっぷり眺めた目で辺りを見回すと、現実もまたかくも美しく見えてくるから不思議。
 宝のまなざしを手に入れるってこういうことだったのか…しまっておこう。

5月20日
 ウォーウォーと電線がうなりをあげて、殴りつけるような突風に近くのマンションではベランダの洗濯物が宙に翻弄されている。植木鉢のムクロジの今年伸びた若い枝がぐるぐる回されて、首が折れてしまわないかとハラハラする。
 我が家は鉄骨の建物なので昼間の強烈な日差しで、オーブンの中みたいに温度が上がる。熊本の5月ってこんなんだっけ、けっこう荒っぽいわあ、とため息まじりに日中の2時3時をどうやってしのごうかと。エアコン入れるには早すぎるし、窓を開けるとホコリっぽいし、結局午睡の後に、私はこのダイアリーを書きはじめ、夫は夏に向けてエアコンのフィルターを掃除しはじめた。分解しかかったら呼ばれて、ハイ、とフィルターを手渡される。
 スポンジと泡で軽くたたき洗いしながら、つい昨日のお茶の時間を思い出して、にんまりしてしまう… 掃除機もそうだけど、セルフクリーンという機能の器具に付着した、いちばんめんどうな汚れを掃除するのは人の手にゆだねられるんだよね、と話した。かくして人間の仕事はなくなることはない。
diary photo やがて夕暮れどきには風が凪いで、窓の外のやさしい気配に誘われて、遠くの山々を望むデッキへ出て深く息をする。おさまった。天変地異も自然の摂理の一コマにすぎない。こういうひとときのオアシスがあるから、救われる気がする。