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冬に備えて自分のベッドで
インドのラジャスタン州のランタンボア国立公園のそばにあるホテルにて。あれは冬だった。昼間は砂漠の日照りでも、夜はぐっと冷え込んで、こういう日に風邪を引くんだあ、と少し不安になった。
 部屋に帰ってベッドが整えてあった。毛布を足してもらおうかと思って近づいたら、湯たんぽが用意してあった。ううっ、なんて可愛いらしいんだ。こんなとところへ来て湯たんぽにお目にかかるとは。diary photo湯たんぽは柔らかく薄いカディの布に中綿をキルティングしてあった。小さなものにジャイプールの手工芸を生かして、控えめにそこかしこに工夫を凝らしてある。
 クラシックなもてなしにも感動したけれど、さらに嬉しかったのはその温度。じわっと肌にぬくもりの伝わる気持ちよさ。熱すぎることなく、ぬるすぎることもなく、ちょうどよいころ加減とはこのことよ。
 家へ帰ってさっそく真似てみよう。冬に備えて自分のベッドで再現するために、その温度を肌で覚えようと湯たんぽをじいっと抱いていたらそのうち猛烈な眠気が襲ってきて…remembering a long, long way from home, it’s calms. はっと気がついたら、すでに夜は更けて日の終わるころ。これからまだ少し起きていて本でも読んで、歯を磨いてシャワーも浴びなくちゃいけないというのに。どうしよう。

12月10日
 外国からパーセル…小包のことをパーセルっていうんだと、若い頃旅したときに英国の郵便局で教えてくれた…で、そのパーセルが届くとパッケージにお国柄が出ていて、開ける前から心浮き立つ。ダンボールの材質は国によって色も厚さも違うし、テープの色もはがし心地も工夫されているのがあり、中の緩衝材に至っては、エアバッグみたいなのやシュレッド紙まで、詰めた人のお人柄が伺える。
 この間は通販で頼んだドイツからのパーセルに、品物の他にガムとグミがオマケに入ってた。また買ってねってことかな、と笑いながらお気持ち頂戴した。 diary photo
 なかでも驚嘆させられたのがインドからのパーセルだ。以前テキスタイルの仕事をしたときのこと、買ったものを纏めておいたら、出荷係の男性が箱に荷物を詰め始めた。ダンボールの箱を薄手の木綿の布でぐるぐる巻いて、端をちくちく手で縫留めた。周囲に布がはみ出ないよう、慣れた手つきできれいにくるんだら、またちくちく手縫いで四角に整形して梱包完了。
 前世紀から、やいやそれよりも交易の始まりからずっと、このやりかたを続けて来たのではないかしらと思うくらい。これは10年くらい前のことで、以来目覚ましく変貌を遂げているらしいから、今はどうなのかわからないけれど。
 こういう古めかしいしぐさのあるインドが、何故かジンと心にしみてくる。

12月20日
 クリスマスが近づくころ。赤いポストまで走った夜の帰り道も、寒空の星を見ながら歩いて、首すじが固まってしまい、あくる朝は痛かったな。
 それでも星を見ながら歩くのは、晴れた日の夜の空は澄み渡って、まれに流星をはっきりと捉えたりするからだ。今夜は流星群が見えるという情報を見つけたときなど、デッキに出て待ちかまえていると凍えそうになり、部屋に戻ろうかとする矢先に、ちいさな光がぽろっと燃え尽きるように降って消えた。
 LEDの電飾に比べたら、宇宙の織りなす星座の輝きは控えめだけれど、流れ星など不意うちのエンターテインメントに遭遇すると、さてはプレゼントかなって。 diary photo
 2019年から2020年へと移行する私たちの星。9という末期の数字にあたる去年は世界中がイライラとして騒がしかった。これまでの概念では時代に合わず、もがきあがくさまだろうか。思えばじつにやるせない事件もあったけれど。
 古い殻を脱ぎ捨てて新しい自分へ脱皮する暗く長い季節には赤い色が映えるのかリンゴ、クランベリー、千両、南天の実を目にすると、晴れやかに元気づく。
 光が尽きたあとの新しい朝はどんなだろう。縁起を祝って赤い花を贈ります。